学校保健と口腔機能

学校保健と口腔機能

 

子どもの歯・口の健康状態の大きな指標となるう蝕の罹患状況について、平成12年(2000年)の12歳児の一人平均う歯数(DMFT)は2.65であった。加えて、「健康日本21」における12歳児のDMFTの到達目標を「1」としたことからも、児童生徒のむし歯の有病者率は減少し、この減少傾向は今後も続くと推測されている。一方、平成11年(1999年)の歯科疾患実態調査における歯肉に何らかの所見があるものは、5歳~14歳で36.5%、15歳~24歳で65.2%とかなり多くを占めている現状にある。このように歯、歯肉などの器質的な健康障害の現状とそれに対する課題は、今後の学校保健の大きな課題ではある。
ここでは、このような器質面の健康の現状を踏まえて、その場で営まれる、食べる、話すなどの口腔の機能面の健康とその課題について考えてみたい。

1.歯・口の機能

歯・口は、消化器の一部であると同時に呼吸(言語)器の一部でもある。そこで、健康な歯と口を中心にして摂食・嚥下機能や音声言語機能などの機能が営まれている。なかでも、摂食・嚥下機能は、呼吸とともに生きるための基本機能であり、日常頻度高く繰り返される生活機能のため、歯と口の健康が阻害されると日常生活を送る上で影響が大きい。日常生活を如何に健康に過ごすか、そのためには個々の生活でどのようなことが必要か、などヘルスプロモーションを考えるとき、口腔機能の健康事象への対応は重要となる。
平成13年(2001年)5月、WHO総会で「生活機能、障害、健康の国際分類(International Classification of Functioning,Disability and Health,ICF)」が成立した。これは従来から良く知られているICIDH(WHO国際障害分類初版)の改定版である。従来のICIDHが、機能障害(生物レベル)が能力障害(個人レベル)を作り、能力障害が社会的不利(社会レベル、Handicap)を作ると受け取れる3つのレベルが相互依存性のマイナスの包括的な概念であったのに対して、ICFにおける生活機能(Functioning)とは「心身機能・構造」「活動」「参加」の3つのレベルのすべてを含む、「人間が生きることの生物的・個人的・社会的ありかた」のすべての面を示すまったく新しいプラスの包括概念である。つまり、マイナス(障害)を中心に見るのではなく、プラス(健常な機能・能力・参加状況、さらにプラスの環境因子)に重点を置いてみる必要性を示している。ここでの環境因子とは、障害の発生に影響すると指摘されてきた、物的・社会的な環境、さらに人々の心の中にある価値観や偏見などが形作る社会意識的な環境をいう。このようなICFの概念は、今後の機能を視点とした健康対応のみならず、学校保健を含む多くの健康教育の場における大原則となる概念と思われる。

2.学校保健と口腔機能


図:WHO国際障害分類初版(ICIDH)の障害構造モデル

図:WHO国際分類改定版(ICF)の生活機能・障害構造モデル

日常生活機能としての摂食・嚥下機能に対しては、学校保健の対象となる園児から高校生・大学生に至るまで、よく噛んで美味しさを味わいながら栄養の摂取を行い、成長期にある児童生徒の健康の維持増進を図る健康教育がなされる必要がある。また、摂食・嚥下の機能が営まれる場である歯と口は、消化器であると同時に呼吸器をも担うため、養護学校などの児童生徒においては、機能障害が生じると低栄養、脱水などの全身の健康面に大きな影響を及ぼすだけでなく、誤嚥による呼吸器感染(誤嚥性肺炎など)や窒息などの事故を含めてその影響は広範囲にわたっており、これらの観点からの取り組みも必要となる。口腔は摂食時のみに使われるのではなく、安静時に分泌される唾液の嚥下は昼夜を問わず営まれており、言語の表出も日常かなりの頻度で行われている。そこで、口腔の器質的のみならず機能的健康の維持増進を目的にした歯と口の学校保健における、歯科領域の取り組みは、教育の場を通して日常の生活指導において大きな課題となる。
口腔形態の成長期の特徴は、その場で営まれる機能に影響を与える。そこで、成長に協調した機能について発達的視点から学校保健の場では以下の大きく3期に分けられる。

  1. 幼稚園から小学校低学年の時期
    (永久前歯への交換期、第一大臼歯萌出期)
  2. 小学校中学年から高学年の時期
    (永久臼歯の交換期)
  3. 中学校から高校にかけての時期
    (永久歯列が完成期)

また、摂食機能は食事の場で、食器や食具を使用して食物を摂取する際に営まれる機能である。食卓、椅子などによる食事姿勢や食物と食器具の適応性などの食環境および食物の硬さ大きさなどの食物の物性を考慮せずに機能だけを取り出すことは不可能である。歯と口だけの完結型の保健指導では咀嚼を中心にした摂食・嚥下機能の育成や機能疾病の予防は望めない。それぞれの時期に歯と口だけでなく全身状態や心理状態、食環境を加味した健康管理と健康教育および指導での対応が必要とされる。
これらに対する歯科領域の対応には、器質的・機能的な口腔ケアが不可欠であり、これらの対応によって、歯と口の機能的な健康の維持回復によって身体の栄養と心の栄養を十分に摂取して、心身の健康保持がなされると考えられる。